というわけで連休はS学会に行って来た。会場のK学院へはN北で乗り換えてK園へと二駅ばかり。それなりに良いお天気で休日だということもあり、車窓から見る町の眺めは、のんびりしていて実に明るくいい感じだ。商店の並ぶ一角と住宅地とがうまくブレンドされていて、こういう雰囲気は京都にも大阪にもないと思う。
東京からやって来たGさん。このあたりはどういうエリアなんですか、豪邸ばっかりで。豪邸というほどでもないと思うが、たしかに花崗岩の白い石垣がまぶしい。
しかし、もうこういう町並みは消えてゆくばかりだろう。
学会では打ち合わせをいくつか掛け持ちで。だからあまりセッションには出れなかったし、あろうことか懇親会の間も打ち合わせをしていたので、あまり新しい出会いはなかったけれど、何人かの人たちとはそのぶんコアに話すことができた。初めてお酒をご一緒したTさんは、なかなか面白い人だったし。
学会期間中はU地区の実家から通う。朝、バスでOの町へ。いつもはクルマで帰るので、電車、バス、徒歩で見る町は、また違った感じに見える。
OにはY子と一年ほど暮らしたことがある。一緒に暮らせるようになったらOの町に住もうとふたりで決めていたから。しかし、訳あって、その暮らしは長く続かなかった。この町には悲しい思い出しかないとY子は言う。たしかにそうだ。しかし、僕はこの町が好きである。そのダメなところも含めて。
休日の朝のOの町。明るくて人で溢れている。かつてこの町に初めてやって来たある人が、町に顔があるなあと言ったのを思い出した。たしかにそうかも知れない。しかし、この町で少しの間でも暮らせば、それがすでに過去のものであることに気がつくだろう。それはきっとK園あたりでも同じことにちがいない。
一日目の夜。ぼやぼやしている間にS先生たちとはぐれ焦っているところを運よくAさん、Nさんのグループに合流。いつのまにかOさんたちも加わって、総勢12名でN北で飲む。帰りの電車で一緒になったフランスのYさん、ドイツのAさんと、期せずして独仏郊外団地の話で盛り上がり、素晴らしいアイデアがひらめいたような気もするのだが、白ワインで脳細胞が死滅していてそれももはや忘却の彼方。
二日目の夜はOさんグループとK園で密談がてらインドネシアのお酒を。いつしかお酒も回り、T大の内情から優秀な人材が研究職にやってこないという話に発展。●●とかあんだけ読める奴がふつうに就職するんですよ。そういう人はどういうところへ就職するんですか? いやふつうに某運輸業とかに就職していきましたよ。うーむ、そうなのか。なんかもう社会のシステムの問題だよ。某運輸業が悪いというわけではないけど。
そんなこんなで帰宅してドアを開けると、いつものようにこうが突進して甘えてくる。けんはこれまたいつものように、しばらく時間が経ってから、おっとりゆっくりやって来る。
そういえば、出張中、U地区の実家の近くで黒猫を見かけた以外、K学エリアでは猫を一匹も見かけなかったな。
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- 作者: 小島信夫
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ああ、なんか悲しいなあ、もう。『抱擁家族』の三十年後、八十過ぎの老作家と再婚した妻を襲う困難の数々。それにしても、ことのハードさとそれを淡々と語る「老作家」の妙なのんびりムードのこのギャップは…。まあ実際にはそういうものなのかもしれないな。とりたてて特異な小説だとは思わないが、誰かが書いていたように、たしかに読み手を読み手自身の過去へといざなう効果は抜群の気も。ていうか、そもそも、小説ってそういうもんか。