こうに比べれば、けんは薬を飲ませやすい印象があった。もっとも、これはふたりがわが家にやって来てすぐの頃、お腹の中に虫がいたときに少しだけ薬を飲ませたときの印象であり、それ以来けんは健康そのもので薬を飲ませたことがなかったのだから、あまり信用のできる話ではなかったかもしれない。一週間前にもらった胃の薬は小さな錠剤が二錠ずつで、いったん口に入れてもすぐに吐き出してしまって、けっこう苦労する。何度もそれを繰り返していると、薬も溶けてくるしけんも可哀想なので、できれば一回で決めてやりたいのであるが、これがなかなかうまくいかない。今度の怪我の薬は大きな錠剤が一つ、これは苦労しそうだと思っていたら初日は一発で飲んだ。大きいから口に入ったら吐き出せずにそのまま飲み込んでしまうのかと思っていたら、昨夜は何度も吐き出してなかなかうまくいかない。だいたい一度でうまくいかないと、変なスパイラルにはまり込んでしまうのか、何度やっても失敗してしまう傾向にあるようで、おとなしいけんもだんだん嫌がって、口を閉じ歯を食いしばり足を上げ(手はY子が抱きながら押さえている)、体をのけぞらせて抵抗する。もうだめだと何度も思い、いまはやめにして後でもう一度やってみようとY子に言ってみるが、一度ですませてやらないと余計にかわいそうだということで心を鬼にして再チャレンジ、ようやく成功した。二人で褒めちぎって解放してやるが、けんは走って逃げてベッドの下に隠れる。Y子と一緒に手を伸ばして撫でると、さらに逃げて猫用テントの中に入り込んでしまった。ふと気がつくと、こうが本棚の上からものすごい目をしてこちらを見つめている。けんがいじめられているとでも思ったのだろうか。こうのほうもよしよしなだめて、しばらくするとけんも落ち着き、ご飯を食べだした。そこへこうがやって来て、慰めるようにけんの体を舐めてやっている。一回目からちゃんと口を開けさせてすぐに飲ませてやらなければ駄目だと深く反省し、今夜は相当の覚悟でのぞむと、あっけなく一回目で飲んだ。ともあれ、おかげでけんの傷はだいぶ良くなってきたようである。
*
しばらく前にエチゼンさんと話していてO.V.ライトの話になり、そのときからずっと I'd Rather be Blind, Crippled and Crazy とか You're Gonna Make Me Cry とかのメロディが頭の中で鳴っていて、聴いてみたいと思い続けていたのであるが、昨夜は早く帰宅したので久しぶりにレコードを引っ張り出してきて鳴らしてみる。
- アーティスト: O.V.ライト
- 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
- 発売日: 2006/08/02
- メディア: CD
- クリック: 3回
- この商品を含むブログ (3件) を見る
ボックスセットは出ているけれど、輸入盤を含めてはまぞうで検索してみても"Into Something"しか出ない。70年代サザン・ソウルを代表する素晴らしいシンガーの作品が手頃な値段で入手できないのは大変残念なことである。
1. A Nickle and A Nail and Ace of Spades (Back Beat)
2. Memphis Unlimited (Back Beat)
3. Treasured Moments (P-Vine)
4. Into Something (Hi)
5. The Wright Stuff (Hi)
6. Live in Japan (Hi)
7. The Soul of O.V.Wright (MCA)
というわけで、いま持っているレコード、CDを、時代順に7枚聴いた。
1,2は言わずと知れた超名盤、3はBack Beat時代のアルバム未収録のシングルコレクション、7はBack Beat時代のベスト盤CD、5はHi時代の編集盤。6は死の一年前、渋谷公会堂でのライブ録音である。O.V.ライトといえば何をおいてもBack Beat盤というのが衆目の一致するところであろうし、僕もそう思っていた。事実、久しぶりに聴き通してみてもBack Beat時代のギラつくような歌とどす黒いサウンドには圧倒されるが、今回あらためてHi時代の録音の素晴らしさに感動する。メンフィス・ホーンズをしたがえたいわゆるHiサウンドの演奏が素晴らしいのはもちろん、何よりも歌の包容力がすごい。名曲Precious, PreciousやバラードのThe Time We HaveとかWithout Youの歌心には涙が出そうになった。演奏の深さに酒もすすむ。すでに病魔に犯されていたという日本での演奏、79年の6にいたる。たしかに全盛期に比べると声は出ていないかもしれない。ホーンもトランペットとトロンボーンの2管だけと少し寂しい。だが、それでもHodges3兄弟とHoward Grimesの演奏はやはり本物、O.V.もさすがの存在感だ。客の反応は少しおとなしい感じだけれど、O.V.への暖かい愛情を感じる。この時代にO.V.のライブに行った人たちはどんな人たちだったんだろう。生でこれを聴いたら悶絶ものだっただろうな。日本の観客のレスポンスにO.V.も何かを感じてくれただろうかと思いを馳せる。インターネットであちこち検索していると、いまサザン・ソウルが絶滅の危機だと誰かが書いていた。名盤がほとんど廃盤で入手不可能になっているらしい。たしかにあまりいい時代ではないのかも知れない。本物の良さ、すごさを伝えていくような仕事がしたいとあらためて思わせてくれるような2008年のO.V.体験であったと言えば少し大げさか。ともあれ、ここのところ1年ほど節約のために自粛していたレコード・ハンティングなのだが、CDで買えないならやはりLP集めるしかないなと少し再燃の気配である。