くぎ煮

おふくろは、今年はくぎ煮を作る余裕がないと言う。神戸の春の風物詩であるイカナゴくぎ煮。毎年、この季節におふくろはたくさん炊いて作っていて、昔はありがたくもなんともなかったのであるが、神戸を離れてからは空気が春めいてくると、あの甘辛い匂いが懐かしく思い出されるようになった。しかし、今年はイカナゴの不漁と、ばあさんが入院しているのとが重なって、どうしても作れる状態にないと言う。地震の年にもおふくろは電車が不通のなかを歩いて買い出しに行って、カセットコンロでバンバン炊いて、ガンガンあちこち配りまくっていた。あの時は、神戸の「母」の心意気を見た気がしたものだが、今年は作れないと聞くと感慨深い。あの頃は、やっぱりみんな若かったなあ…。
そういうわけで、みなさま、今年はお配りできないかもしれませんがどうぞご容赦お願いいたします。