スイレンとメダカと水槽の話(二)

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さて、ようやくうまく行きはじめたかのように思えたスイレン鉢であったが、八月の終わりのあるとても暑い日の朝、いつものようにメダカたちに朝ごはんをあげようとベランダに出たところ、昨日まで元気だったメダカたちがほぼ全滅していたのである。暑すぎたのかとも思ったが、今から振り返ると水質が悪化して、アンモニア中毒を起こしていたのかもしれない。異常に気がついたときは、赤ちゃんメダカがまだ3人ほど浮かんでいたが、救出しようと焦っている間に2人は絶命、いちばん小さな赤ちゃんだけを救い出し、小さな水槽になんとか移し替えたのであった。

 

あまりのショックに、もうメダカはやめようかとも思ったが、しかし赤ちゃんがひとり残っているのでやめるわけにもいかない。それに、もっと大きな水槽を買って、部屋の中で飼いましょう、あなたの好きな水草も入れて、とY子が言ってくれたこともあり、実は前からやってみたかったこともあって、60cm水槽とフィルターその他一式を購入、新たな水槽生活が始まったのであった。

 

スイレン鉢の過ちを繰り返さないように、本に書いてある通り慎重に水槽を立ち上げ、ひとりだけだと寂しいだろうとメダカを数匹投入。しかし、唯一生き残った赤ちゃんメダカは、環境の大変化に耐えられなかったのか、残念ながら数日後に亡くなってしまった。

 

そして1週間後にグッピーコリドラスを投入。毎晩帰ってきてから優雅に泳ぐ魚たちを眺めるのはなかなか良いもので、おかげで飲みにも行かずにまっすぐ家に帰るようになった。さすが大枚をはたいて購入した水槽システム、魚たちも元気で、今までのようなスイレン鉢とは違うなと思っていたが、立ち上げから3週目に入ったある夜、異常を発見。本来底の方にいるはずの魚たちが水面に集まってきて口をパクパクしている。酸欠かと思い、エアレーションや水流を工夫したりしたが、ここからが再びの苦難の日々の始まりであった。

 

翌日からまずエビやドジョウたちが亡くなり、他の魚たちも明らかに元気がなく、少しずつ死んでいく。いろいろ調べたり、人に聞いたりしてみたところ、どうもアンモニア中毒ではないかとのことで、試薬を買ってきて調べたところ、たしかにアンモニア濃度が異常に高い数値を示していたのである。

 

あわてて水質調整剤を買ってきたり、バクテリアを投入したり、弱った魚たちを塩浴させたりと、考えられるありとあらゆることをやってみたが、結局その週末までに魚たちは全滅。変なとこに連れてきて悪かったなと謝りながら毎朝プランターに埋める。気に入っていたコリドラスが亡くなった時には涙が出た。こうして水槽立ち上げは見事に大失敗に終わったのであった。

 

今から思えば、あれこれ場当たり的に対応して、かえって状態を悪化させていたのかもしれない。魚たちには本当に悪いことをしたと思う。そうして水草だけになった水槽を前にこれからどうしたものかと途方に暮れていたところ、山とアクアリウムの大先輩Sさんから電話をもらい、今水槽に起こっている問題について分析してくださったうえで、またゆっくりやり直してみたらと言ってくださったのである。

 

こうして今後の方針が決まり、また水質が改善したら魚たちを迎え入れようと水草だけの水槽を維持していた9月の終わりのある日、僕が山から帰ってくると、Y子とけんがふたりで水槽をじーっと見上げている。なんか泳いでない?とY子。え、虫でもわいたんか?と思って水槽を見てみると、なんと小さな小さなメダカの赤ちゃんがたくさんたくさん泳いでいるではないか。

 

まさに奇跡が起こったと思った。メダカたちは自分たちがもう長くないと悟った最後の日々に、自らの子孫を残そうとしたのだろうか。命は本当に不思議なものである。

 

今度こそは失敗しないようにSさんのアドバイスを忠実に守り、あまりいじりすぎず定期的な水換えだけでとにかく我慢で一ヶ月。メダカたちはぐんぐん成長。もうここまできたら食べられることもないだろうと、昨日、グッピー一組とコケ対策でヤマトヌマエビ5を投入。今度こそうまくいってほしい、と心配しながら水槽を見守っている。

 

さて、Y子によると、メダカの赤ちゃんたちの第一発見者はけんだとのこと。生体がいなくなってから水槽を見上げることのなかったけんが、その日、じーっと熱心に見上げているのでなんだろうと思ったところ、赤ちゃんたちが泳いでいたとのこと。猫はやっぱりすごいなあと思ったのである。なお、けんは最初のうちこそ水槽に(その大きさに?)びっくりして警戒する様子だったもののすぐに慣れ、たまにじっと魚たちを見上げたりはしているものの、ちょっかいを出したりみたいなことはない。こうだったら伸び上がって確認したりしていただろうか?